銀の巨人ヴォルネスを背に乗せ、青の大型戦闘機ストライクフライヤーが大空を翔る。
 向かう先に見えるのは市街地に現れた黒の巨人、漆黒のボディに鮮血のような赤いラインを巡らせた禍々しき姿を持つ死神、デスファントム・ペイン。
 戦域と敵機を確認した御剣志狼は合図を送ることすらもどかしい様子でヴォルネスごと飛び降りて宙を舞い、神条正人はその有様に別段驚いた様子も見せずに機体のバランスを取り直すと、自らも高度を下げて一直線に現場へと直進し、互いに戦闘態勢を整えるべく行動する。
 呼び声に咆哮で答えるライガードが虚空より現れ、鎧へと姿を変えたその内にヴォルネスを収めていく。
 一方、左右の推進用大型ブースターを背面に、機首を胸部に据える形で一瞬での変形を可能とした勇者機兵もまた、その真の姿を顕現させた。

『雷獣合体! ヴォルッ、ライッ、ガァァァッ!!』

『勇者覚醒! ストライク、キャリバァァァッ!!』

 着地を待たずして姿を現した両雄、ヴォルライガーとストライクキャリバーは雄々しい叫びと共に大地を踏みしめる。
 黒い死神はそれらを紅い双眸で睨み付けると、背面の翼を翻しながら両手に構えた大鎌を振り被り、距離を詰めながら躊躇なく振り抜いてきた。
 咄嗟に背後に跳躍して距離を取り、両足のホルスターからライトニングショットを引き抜くストライクキャリバーと、ライガーブレードを引き抜いて正面から受け止めようとするヴォルライガー。
 前衛となったヴォルライガーが攻撃を受け止めたところで、後衛のストライクキャリバーが二丁拳銃で攻撃するコンビネーションは鮮やかだったが、盾も兼ねているデスファントムの翼によって直撃を回避されてしまい決定打にはならない。

『相変わらず一撃が重てぇ……!』

『気を抜けばその瞬間真っ二つだな……!』

 受け止めた一撃の重さに冷や汗を掻きながら呟かれた志狼の一言に、ヴォルライガーが危機感を滲ませた返答をする。
 対するデスファントム・ペインは一切の感情を含まない、機械的な態度で応じるのみ。

  『勇者を破壊する……その為だけに、私はここに居る』

 そのまま力で押し切ろうと力を込められた大鎌に対して、ヴォルライガーはあっさりと身を引いて後方へと跳躍した。
 それに入れ替わるように、銃を収めて両腕の手甲ストライククローを展開しつつ飛び込んできたストライクキャリバーの一撃が叩き込まれる。
 振り抜いた刃では無く、柄の部分で辛うじてこれを押し留められたデスファントム・ペインだったが、その視線の先で奥に引っ込んだヴォルライガーが再び剣を振り被っている様子を認識した。

『我々を破壊することは不可能だ、クローク。そしてお前をメメントモリ・システムから解放してみせる!』

『私は元よりカオスガーデン・システムに捉われた存在。解放されたところで、また命を殺める道具として利用されるのみ』

 脇に逸れて肩のバルカンを連射しつつ牽制するストライクキャリバーの背後から、雷を纏って加速するヴォルライガーの剣閃が迫る。

『それで納得してるって態度じゃねぇだろ。口に出せるだけの不満があるなら、ぶち当たってでも変えてみたいって思うもんだぜ!』

『変えてどうなる。私は造物主さえ殺めた人形だ、その事実が変わることは無い』

 対して、デスファントム・ペインの左腕に収納されていた機関砲を展開して牽制しつつ、翼を前で閉じて防御態勢を取った。
 元々の対刃性能に加えてシステムの強化によるものか、マイトによって底上げされたライガーブレードの一撃は翼の盾を貫くことなくせき止められ、ヴォルライガーの足が僅かに止まった。
 その隙に腹部に叩き込まれた蹴りの一撃によって後退を余儀なくされた所へ、追撃の鎌が迫る。
 そうはさせないとばかりに、右膝のアサルトシュナイダーを展開したストライクキャリバーが割り込み、刃筋こそ通らなかった翼の盾ごと全重量と全推力を一点に集中した一撃を叩き込んだ。

『変えるのは事実では無く、未来だ。今の行動から始めたその先の積み重ねこそが大事なのだと、気付くんだ!』

 勢い余って弾き飛ばされたデスファントム・ペインは背中から地に倒れ、対するストライクキャリバーとヴォルライガーはそれ以上の迂闊な追撃を控え、改めて武器を構え直すに留まる。
 事実、真紅の循環が全身を巡っている限り黒い死神に限界は訪れることはなく、防御越しとはいえ渾身の一撃を受けていながら特に問題なくその身を起こしている。
 メメントモリ・システムの呪縛が、彼を戦いに駆り立てていることの証明でもあった。

『不要な考えを抱けば捨てられ、刷新される部品に過ぎない私に、何を言うか』

『それでも積み重ねて来たんだよ、クローク。未来のお前は確かに、その閉塞感を打ち破るために抗い続けていたんだ!』

 沈黙が場を支配したのは名を呼ばれたことによる動揺か、未来の己を知ることに対しての戸惑いか、或いはその両方か。
 生じてしまった葛藤を自覚したクロークという意識は、その事実を否定するべく再び鎌を手に勇者たちへと距離を詰めた。

『未来の私にそのような自我があるとすれば……それは目的意識から逸脱したノイズに過ぎない!』

 2人まとめて薙ぎ払おうと振るわれた一撃は、左右へとそれぞれ分かれて跳躍した両者を捉えることなく空を切った。
 雷のマイトによって地に張り付くように曲線を描きながら加速するヴォルライガーの剣と、直線機動の推進力を生かして強引に距離を詰めるストライクキャリバーの拳が両極から挟み込むように繰り出される。
 やや感情的な態度を取りながらも、システムの一部として機能しているクロークとしての自我が冷静な対処を強制し、迫る剣を鎌で捌き、拳は翼の盾で受け止めた。

 しかし叩き付けられるのは攻撃だけではない。 『積み重ねられた思いには、起源があるのだ。それがお前であることは疑いようのない事実!』

『それでも私は、救いなど求めていないのだ……! ただ人形として殉じ、死神として振る舞うのみ!』

 身体の旋回を加えた翼によってストライクキャリバーを弾き飛ばし、追撃を加えようと左腕の砲身で狙いを付ける。
 しかし否定の感情が先走った短絡的な行動によって隙を晒してしまったことは、クロークとしての落ち度であったかも知れない。
 ほんの一瞬意識を放してしまったヴォルライガーが距離を詰め、今まさに放とうとしていた左腕の砲に踵を叩きつけていた。
 追撃を諦めて距離を取りながら、誘爆の恐れのある左の砲身を切り離す。
 己の迂闊さによって攻撃の手数を失ってしまったことに苛立っているクロークに、追撃の怒声が叩き付けられた。

『分からず屋が! 死神なんて大層な名前を名乗ろうと、人形として殉じるなんて自分で口にするってのは、不満を抱えてますって言ってるようなもんなんだよ!』

『何だと……!?』

 今まさに感情的な行動を取ってしまったという事実が、その言葉を頭から否定することを拒絶する。
 選択の余地がない、避けられない運命なのだと考えなければ受け入れることさえ出来ない理不尽だと自覚しているからこそ、認める訳にはいかないのだと言い聞かせてきたのだ。
 そんな境地をあっさりと踏み越えていく、己の正義に殉ずる者の言葉は心の奥底に閉じ込めた感情に無遠慮に触れ、神経を逆撫でしていく。
 人形であろうとするクロークは、それこそが自らの感情であることを認めることが出来ない。
 自分は死神、与えられた役割に準じて生と死を間引く、死神でしかないのだと、そう自らに言い聞かせてきたのだから。

『不満など抱えて何になる……! 救いなど求めていないこともまた、私の真実であることに変わりはないッ!』

 抑えようとする程に止めどなく湧き上がってくる感情のままに、目前まで距離を詰めていたストライクキャリバーを捉えた大鎌によって薙ぎ払おうと振り抜いた。
 迫る刃は寸分たがわず勇者機兵の真芯を捉え、しかしその一撃が本体を貫くことは無い。
 爪を収めた両掌によって、その刃先が圧し留められたからだ。

 そして。 『それでも救いは、必ずある! そしてそう信じ続ける思いそのものこそが、奇跡を起こす源だということを教えてやる!』

 GXシステム起動。
 ストライクキャリバーの全身が金色の光に包まれ、その真の力を開放する。
 咄嗟に身を引こうとしたところで拘束されたままの大鎌がビクともせず、デスファントム・ペインの動きが膠着した。
 その瞬間を狙った一撃が真上から降り注いだ。

『ちょっとばかし荒っぽいがな! 覚悟しやがれ!』

 跳躍から繋げた振り下ろしの一閃を繰り出したヴォルライガーの剣が、大鎌の刃を横っ腹から力任せに叩き割ったのである。
 武器を失ったデスファントム・ペインは躊躇なく鎌の柄を手放し、全推力を持って後方へと後退した。
 それが最大の隙となる。

  『ホールディングブレイザァァァッ!』

 ストライクキャリバー胸部の機首、その下部が展開して露出した発射口より解き放たれた光弾が撃ち出され、黒い死神を完全に捉えた。
 その一撃は相手を滅するものでは無く、高圧縮されたエネルギーを瞬時に開放することによって対象の身動きを封じる為のものである。
 翼を閉じて防御態勢を整えたデスファントム・ペインは、その一撃を受けることで拘束され、身動きを封じられてしまう。

『ぐうッ!? 身動きが……!』

『ここで……』

『『決めるッ!!』』

 メメントモリ・システムの稼働時間内に決着を付けない限り終わらない戦いに終止符を打つため、正人、志狼、ヴォルネスはこの機を逃すことなく一気に畳み掛ける。

『カイザードライブ、フルチャージッ!』

 背面のブースターから抜き放った実体剣、カイザーブレードを掲げて全身に纏った金色の光をその刀身に収束させるストライクキャリバー。

『御剣流奥義、<轟雷斬>ッ…』

 半身を引いた姿勢で突き出された刃、ライガーブレードにありったけの威力と推力を込めて敵を両断する奥義を構えるヴォルライガー。
 互いに持つ最大の威力を誇る技を重ねることで、確実に相手の防御を貫く一撃を生み出す勇者の連携。

『『『連携奥義ッ! <獅凰雷光斬>ッ!!』』』

 左右から同時に飛び出したストライクキャリバーとヴォルライガーは、脇目も振らず距離を詰める。
 金色の鳳凰と迅雷の獅子、その気迫を纏った両者の刃が黒い死神を捉え、咆哮とともに駆け抜けていった。
 一対の刃は身を守る為に閉ざされていた黒い羽ごとデスファントム・ペインの胴体、全身を巡る真紅のラインの中枢たる核を断ち切った。
 それはクロークを縛るメメントモリ・システムとの断絶を意味している。

『ガハッ……! わ、私は……勇者を破壊する、為に……!』

 それでもなお、クロークから戦いの意思が消えることはない。
 固執する思いの根源が自身の存在意義に直結している以上、ここで全てを放棄するという事は自らの全てを自己否定することと同義だと感じているからである。
 身を断ち切られてなお抗おうとするのは目前の敵に対してではなく、己の内より湧き上がる葛藤に対してなのだから。
 そんな彼に、正人は静かに告げた。

『……お前もまた”勇者”となるんだ、クローク』

 自らが滅ぼすべきと定められた対象に自らが至る、その矛盾を突き付けられたクロークの心を困惑が支配する。

『なん……だと?』

『死神とは、死を振り撒く殺戮者ではない。生と死を見極める位置に立って命を導く存在だ。お前は……人の命を奪うだけの人形にはなれないんだ、決して』

 己の矛盾を乗り越える為に用いた”死神”という方便を覆され、クロークはその言葉をどう否定して良いのか、否定したいのかどうかすら分からなくなっていた。
 重荷と感じていた胸の内の葛藤から目を背けていただけだという事実を直視してしまえば、目を背けて誤魔化す選択肢に逃げることは出来なくなるんだと、自身は既に気付いていたのだ。
 だからこそかたくなな態度を取り、勇者たちの言葉を拒絶することで己を守ってきたのだから。
 それも偏に、自分自身で背負い切れないと分かっていたからこそ目を背け続けた根本的な疑念が存在していたからに他ならない。

『造物主さえ殺した、この手を……罪を、抱えたまま……向かう先があると言うのか……?』

 自らを生み出した存在を手に掛けたことを、罪と認めることへの恐怖と、機械的に目的を果たすことしか許されない自身がその重みを背負う資格すらないのだという自覚。
 それらを抱えたまま元のシステムが稼働し続ける限り、共に存在し続けなければならないという現実に直面していたからこそ。
『必ずある。そのおぼろげな道筋は、手を伸ばしたその先に必ずある。それが”希望”という道筋なのだ』

 正人のその言葉は、ようやく自らの”心”の輪郭に辿り着いたのだと自覚する。

『それが……私の、希望……』

 それを喜ぶべきか、悲しむべきか。
 いずれかの判断を下す間もなく、メメントモリ・システムから完全に切り離された瞬間、彼らの存在もまた、この世界より消失したのである。
 その姿を見届けて、志狼はぽつりと呟いた。

『……終わった、のか?』

『そのようだな。これで彼もシステムから解放されるだろう』

 ヴォルネスが応じ、正人もまた黒い死神の最期を見届けた姿勢のまま頷いている。
 メメントモリ・システムによる召喚は一度きりという話を信じるなら、これで彼が再びこのような形で戦場に引きずり出されることはないだろう。
 しかし。

『なぁ正人さん。本当にこれで、アイツは未来への希望を掴めたって思うか?』

 志狼の疑問に、正人は沈黙を保った。
 兵器製造プラント・カオスガーデンの中枢として囚われたままのクロークは、解放されたところで同じく戦いの道に駆り出される存在であることに変わりはないのだ。
 未来を知っている正人だからこその言葉ではあったが、それだけで全ての迷いを吹っ切れるようであれば、ここまで深刻に思い悩むこともないだろう。
 無論、正人とてそれを理解していない訳では無く、理解していたところで何もせずにはいられなかったからこそ、言葉として紡いで届けたのだ。

『……分からない。私が知っているのは結果だけだ、その過程の悩みなど知る由もない……ただ』

『ただ?』

 言葉にした全ての思いが相手に届くとは限らない。
 受け取めた思いのすべてが自分を変えてくれるとも限らない。
 理解し、受け止めた上で、どう行動するかを決めるのは当人であるからこそ。

『それでも希望はあると信じつづけた先に、道は確かに存在し続けてきた。だから彼も、きっと……!』

 伝えた側に出来ることは、相手を信じることだけなのだと、正人の言葉は物語っていた。

『そうだな。そう、願うべきだ』

『……だな』

 故にヴォルネスも、志狼も、その言葉を信じ。
 そして言葉を届けられたクロークの未来を、ただ信じることしか出来ないのだと、そう思えたのである。




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