ヴォルライガーを正面から圧倒して見せた敵、デスファントムの襲来。
 何の脈絡も無く現れた脅威に対抗するため、勇者たちは襲撃のない合間を縫って調査を続けていた。
 敵の機体に最も詳しい勇者機兵隊の主任技術者、レオナ=ラージスを中心に結成された調査メンバーの活動によって、遂に襲撃者の根幹に接すると思わしき情報を入手する。
 実際に交戦経験があることで実働メンバーとして選ばれていた御剣志狼とヴォルネス、そして神条正人はその報告を受け、状況を把握するべく彼女の元へと集結した。
 そこに鎮座していたのは見上げるほどに大きな機械の残骸であり、素人目に見ても大破して使い物にならないスクラップであろうことが分かる状態で技術者の作業スペースの一角に放り込まれている。
 これこそが現状直面している問題、すなわち異界より戦力を呼び込んできた原因そのものなのだと、レオナは説明する。
 その口から告げられたのは、この機械に名づけられていたと思わしきコードネームだった。

「メメントモリ・システム?」

「何だそれ?」

『名前から察して、”死”に関連する何かだとは思うが』

 正人、志狼、ヴォルネスの三人はそれぞれ頭に疑問符を浮かべながら首を傾げていた。
 正確には二人と一本の剣だが細かいことはさて置くとして、至極当然の反応を返した面々にレオナは大きく頷きながら、調査の末に判明した事実を伝える為に口を開く。

「そうね。簡単に言うと”死を強要された存在”を他所から取り込んで手駒として使うシステム、ってところね」

 具体性に欠けた抽象的な表現をしたのは、原理を無視した上で結果だけを説明した方が理解が早いだろうと言う判断からだろう。
 そもそも専門的な知識に特化したレオナの説明によって全てを理解できる面子ではないので、確かに正しい判断だと言える。

「言葉の印象からすると、特定の条件に合致している戦力を他所から確保する為の装置、と思えば良いのか?」

「そんなところ。と言っても、今すぐに再現ってのが不可能だから、実際にそれを証明しろって言われても無理なんだけど」

 正人の推論を肯定しつつ、肩を竦めて見せるレオナ。
 技術者として出来ないことがあるという事実に不満を抱いている様子ながら、あくまでも時間の問題だと言っている辺りその内再現してもおかしくないなと言うのが、彼女の表情を見た全員の率直な感想だった。
 その辺りを突くと専門用語のマシンガントークが返ってきそうなので誰1人口にはしなかったが。

「そのシステムに呼び出されたのが、あのデスファントムってやつなのか」

 志狼は自らを退ける程の力を有した敵の存在を思い出しながら、複雑な表情を浮かべている。
 タダで転ぶつもりは毛頭ないとは言え、正人の加勢が無ければより追い込まれていた可能性がある以上は己の未熟さを痛感するしかない。
 ただ次こそは不覚を取るまいと心に決めているので、その表情に動揺の色は見受けられなかった。

「順を追って説明するけど、まずあの機体からね。どうやら私たちの世界の過去から引っ張って来られたのは間違いないみたい」

「やはり、乗り手は”最初の”クロークということで良いんだな」

「ええ」

 正人はその事実確認によって、乗り手が誰であるかを見定めた。
 元々デスシリーズと呼ばれる機兵は犯罪組織ハザードの頭領、ハザード=シャドーレイスの専用機だったが、後にその機兵群の乗り手を引き継いだ存在がいる。
 それこそがクローク。かつては正人と敵対した彼は、現在では勇者機兵隊の協力者として隊の本部の方で活動をしていた。
 現状がそうであるからこそ、敵対している時代から呼び出されたということなのだろうという結論に至ったのである。
 ただ、素直にそう受け取る為には違和感を覚える一言が付け加えられていることに気付いたヴォルネスが、その一点を指摘した。

『最初の、とはどういう意味なのだ?』

「元々クロークってのは、ある犯罪組織が生み出した機兵の生産設備の中枢制御人格のことなの。システムを維持する為に何度か交代を余儀なくされてきた、と聞いたわ」

「まるで使い捨ての部品だな……胸糞悪い話だぜ」

 レオナの説明を受けて、不機嫌な表情を浮かべたのは志狼である。
 ヴォルネスという相棒を持つ彼にとって、人格を持つ以上は個の存在であると認めるところであり、それを軽んじるやり方に嫌悪感を抱くのは自然のことだった。
 それは機兵という仲間を持つ正人にとっても同様である。

「同意見だな。今となってはその設備も失われ、中枢人格もシステムから解放されている訳だが……しかしそうなると、カオスガーデンという設備そのものも呼び出されているのか?」

 元々のクロークの主体は生産設備にあり、ともなれば無数に機兵を生産できる能力を持つ存在を相手にしなければならないかも知れないという予感が彼の脳裏を過ぎった。
 しかしそれに関してレオナは首を横に振り、それは無いだろうと否定的な見解を示す。

「それは無いと思う。このメメントモリ・システム、どうも失敗作として放棄されていたものらしくてね。単体での戦力としか呼べない上、対象にある程度の自我が残ってしまうことで制御にも難がある、と判断されたんでしょうね」

『随分と勝手な話だ。呼び出された方はたまったものではないな』

 ヴォルネスの総括に一同は頷く。
 自我が残るということは、操られていることをある程度自覚しながらも戦いを強いられるということに他ならない。
 例え戦う目的そのものが自分自身の思いに起因したものだとしても、呼び出された者の思惑に踊らされて手駒として扱われる事実に変わりはないのだ。

「その上、呼び出された存在は目的意識の刷り込みによる強制力の影響で、強引に能力を強化されているみたいね。報告にあった全身の傷みたいな模様ってのは、強引な強化による反動みたいなものだと思うわ」

 まるで傷跡の内に血液が循環しているかのような紋様が全身に刻まれていることから、”デスファントム・ペイン”と呼称されることになった機兵は、システムに取り込まれたことによって性能が強化されている。
 その強化は本体への反動を無視した強引なものであり、自らを傷つけかねない歪さと引き換えにヴォルライガーすら圧倒するパワーを引き出したことを思えば、旧型と侮る訳にはいかないことが良く分かる。

「戦いにくいと同時に油断も出来ない相手か……気を引き締めなければならないな」

 正人の総括には頷きながらも、志狼は苦笑を浮かべながら言葉を返した。

「まぁ、どっちみち全力でぶつかるしか無いんだけどな」

『それしか出来ないとも言うが』

「悪かったな! その通りだよ!」

 ヴォルネスからの指摘に否定する要素を微塵も見出せなかった志狼は、声を荒げながらも認めるしかない自分の未熟さ、正確には不器用さを自覚せざるを得ない。
 敢えてそれを突くような趣味を持ち合わせていなかった正人は、苦笑いを浮かべながら逸れかけた話題の軌道修正を図った。

「ともかく、今度奴が出現した時は私も一緒に行こう。むしろ狙いは私たち勇者機兵隊なのだから、こちらが助けてもらう立場ではあるが」

『世の中持ちつ持たれつ、ということだ。無鉄砲な主をサポートしてもらうのはむしろこちら側であるしな』

「ヴォルネス、何か俺へのコメントキツくなってないか?」

 辛辣な相棒への問い掛けに返答は無かった。

「何にせよ、敵が出現するまではお預けだわね。機体の調整はやっておくから、正人たちはその時に備えて身体を休めておいて」

「ああ……しかし、な」

 珍しく歯切れの悪い返事を返す正人に、レオナは首を傾げた。

「どうかした?」

「いや、”死を強要された存在”を取り込む、という部分が気になってな。あのクロークは一体、何を強要されたと言うんだろう」

 命のやり取りに起因する行いは世の中に溢れていて、その中で”強要される死”という言葉が意味するところが何処にあるのかを掴みかねているのである。
 システムに取り込まれた人格が命令に逆らえないという意味では、クロークという存在は確かに何かを強いられる立場にあっただろう。
 しかし、数多ある選択肢から彼らが選ばれたその理由が何なのか、それを判断できるだけの情報が彼の中には存在しなかったのだ。
 レオナはしばし考える様子で沈黙し、やがて口を開いた。

「……犯罪組織ハザードの幹部の一角、トルナードを捕まえて星間連合に引き渡したって話。覚えてる?」

「あぁ。引き渡された後の移送中に襲撃を受けて粛清された……と、報告を受けたが」

 それは正人たちの元居た世界で6年ほど前の出来事。
 犯罪組織ハザードとの事実上最終決戦となった”ハザード事件”の折、決着の付いた幹部が3人いた。
 首領のハザード=シャドーレイス、戦闘狂と言われた女幹部シェイカー、そして機兵の量産を受け持っていた幹部トルナード。
 当時の隊長、勇帝機兵ルーンカイザーという犠牲を伴って集結した事件を経て、トルナードは勇者機兵隊に捕縛され、後に星間連合へと引き渡された経緯がある。
 その時、隊の手を離れたが故に初動が遅れて対処出来なかった案件が存在した。
 それこそが、星間連合による移送中のトルナード襲撃事件である。

「その時に用いられた機兵が、どうも先行して組み上げられた当時の最新型、デスファントムだったそうなのよね」

 地球を舞台にした”カオスガーデン事件”の折に、正人もクロークの操るデスファントムと交戦し、辛くも勝利を収めている。
 現在でこそ”ソルブレード”と呼ばれる独自の機兵製造ラインを確保している星間連合であるが、犯罪組織の勢いに押されて技術的に劣っていた当時では、試作機とは言えそれほどの戦闘力を秘めた機体が実戦に投入されてはひとたまりも無かったのだろう。
 勇者機兵隊としても、この一件によって自動生産プラント・カオスガーデンの発見が遅れ、本部襲撃や地球での事件を未然に防ぐことが出来なかったことは痛手であった。
 そういう混沌とした時代にあった一つの事件が関わっていることに、正人の表情は無意識の内に、心の傷を抉られたかのように歪む。

「それが、あの最初のクロークが乗っていた機体だと?」

「おそらくね。で、クロークを含めたカオスガーデンというシステムを作ったのは、機兵の量産部門を担当していたトルナードなのよ。最終的にはハザードを裏切ってのし上がる為の切り札として用意していたものらしいんだけどね」

「策士が策に溺れたって話か? 自分で作ったシステムに始末されるなんてな」

 志狼の率直な指摘に、レオナは躊躇なく頷いた。
 彼女としても、機兵を量産して宇宙に戦果を広げる要因を作り上げたトルナードを擁護する理由は無い。
 同じく機兵を生み出し、同じような悲劇を引き起こす要因になりかねないことを自覚しているからこそ、戒めとして心に残しておかないといけない事例であると同時に、決して許してはならない立場にあることを自覚しているからだ。

「そう。”自分を生み出した相手を始末させられた”存在って訳ね」

 何より、意思を持つ存在を生み出しておきながらそれを使い捨ての道具の様に扱う考え方そのものが、彼女の心の琴線に触れる要素だった。
 その結果、与えられた命令によって創造主の命を奪うことを強いられたのなら、命を奪う、死を与えることを強要される人形に過ぎないのだという認識を、その人格に刻みつけることになる。
 己の意思で生きることの出来ない人格というものが存在するのなら、その命、すなわち死に至るまでの全てを何者かに強制されることになるだろう。

『それは……自我を持ち合わせていると言うなら、複雑だろうな』

 作られた存在でありながら自我を持つと言う意味では同じ境遇のヴォルネスが、複雑と表現する以外に無い葛藤を抱きながら呟くと、レオナもまた生み出した者としてその思いが分かるからこそ表情を歪めるしかない。
 しかし、今は傷心に沈んでいられる状況では無かった。
 逆に傷つくだけの心を持ち合わせているからこそ、現状の問題を放置する訳にはいかないことを再認識する。

「当時のクロークがどれほどの自我を持ち合わせていたかは分からない。けれど後年、システムの呪縛から解き放たれたいと願う様になった辺り、この出来事がある種の分岐点だったんじゃないかと、私は見ているわ」

 察することしか出来ない境遇に物申すだけの資格は無いかも知れない。
 それでも、これまでの経緯とこれからの決意を選択した当人を知っているからこそ、過去の残滓とは言え放置しておくことは出来ない。
 それはこの場に集った全員の共通認識でもあった。

「そんな分岐点となる要素を、今度は別のシステムに利用されたということか。何としてでも開放してやりたいところだが、方法はないのか?」

「戦力として呼び出されたのだから、撃破する以外の選択肢はないでしょうね。自我に訴えかけることで説得を試みても、恐らくはシステムの持つ強制力で戦いは避けられない」

「それが”勇者を破壊する”って目的かよ。その点も、勇者機兵隊が相手って部分を利用されてる気がするぜ」

「メメントモリ・システムそのものの解析はほぼ終わっていて、召喚が一方通行であることは間違いないだろうと分析してる。おそらく、一度倒せば二度と利用されることはないでしょう」

『ならば次は何としてでも、奴を開放してやらなければならないな』

 気持ちを新たに、皆で協力して事に当たろうと決意をしたそのタイミングを見計らったかのように。
 その場に、緊急事態を告げる警報が鳴り響いた。

「……言ってる傍から、どうやら敵が出現したようだわ」

 部屋に備えつけられた通信用の端末から情報を読み取ったレオナは、その情報がデスファントム・ペインの襲撃を告げるものであったことを伝える。
 正人と志狼、そしてヴォルネスに緊張が走った。
 しかし、それも一瞬のこと。

「ヴォルネス、正人さん!」

『ああ!』

「出撃する!」

 志狼の呼び掛けにヴォルネスが答え、正人が行動を促した。
 システムに捉われた傷だらけの死神を開放する為に、勇者たちは出撃する。




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